学校建築

■学校建築の自然エネルギー利用


井山武司

自然エネルギー利用の21世紀的課題

 太陽光・太陽熱・風力・水力・波力・バイオマス等の自然エネルギーは全て太陽エネルギーを基としています。しかもこれらのみがCO2を排出しないクリーンな再生可能エネルギーです。しかも建築と太陽エネルギーとの関係は新たにはじまろうとしているのではなく、初めからあったのだと私には思われます。自然エネルギーを新エネルギーと呼ぶならば2010年の新エネルギー使用目標3%に比べて、5000年前の三内丸山に居住していた人々は100%新エネルギーを利用していました。
 地球温暖化を完全に停止させるCO2排出削減量は、IPCC-気候変動に関する政府間パネル-によれば、京都会議で協定された日本6% アメリカ7% EU8%ではなく、60から80%です。
 日本ではCO2排出の1/3が建築から発生しているので、建築における太陽エネルギー利用は大きな意義のあることになります。このためには自然の力いわゆる環境エネルギーを巧みに生活環境に利用してきた人類の知恵・遺産をもう一度見直すことから大きなヒントを得ることができます。そして建築を、石油やガス、原子力などの資源エネルギーを浪費する人工的環境から、人類がその長い時間を過ごして来た、より自然な環境に戻すことが現在必要なことであると思います。20世紀に忘れ去られてしまった建築と太陽との関わりを見直し、建築において消費されるエネルギーを太陽光から創り出す技術を確立することが肝要です。

有効性の高いパッシブソーラーシステムを構築する

 太陽エネルギーの建築での利用については、建築におけるエネルギー需要に対応する必要があります。
 まず照明に対しては、昼間の自然採光がもっとも効果があります。暖房に対しては、パッシブソーラーシステムの直接熱取得太陽熱暖房が奨められます。冷房に対しては夜間通風躯体蓄冷が効果的です。暖冷房は建築躯体との熱の交換=幅射暖冷房になります。この三つの手法が根幹であり、これを徹底的に実施した上で、太陽光発電装置、太陽熱温水装置の設置をすることが効果があります。
 パッシブソーラーシステムは太陽の年間の運行の軌跡を活用します。冬は南側の低い高度を運行する太陽の光をできる限り取り込み、夏は高い高度を運行する太陽の光を庇などを活用してできる限り排除します。
 次に建築を人間の身体の様に作ります。柱一梁は骨格、床・壁・天井は筋肉、これらを皮下脂肪の役目をする断熱材がくるんで、皮膚一外壁が保護します。南に大きく開口部を設け、高い断熱性能のガラスを嵌めます。この開口部の上部の庇で、夏の日差しを避け、冬の日射を室内に導き入れます。このようにすれぱ熱容量の大きな構造体は、冬は蓄熱体・夏は蓄冷体となり、建築空間を冬暖かく夏涼しく保ちます。
 太陽と地球の間には雲があるということも忘れてはいけません。その地域にどの程度の日射があるかということを過去のデータからチェックし、その分を計算に入れて窓の大きさや数、補助暖房のエネルギー量などを決めます。建設省建築研究所において開発されたパッシブデザインシミュレーションツール・ソーラーデザイナーはアメダスのデータを用い日本全国でパッシブデザイン建築のの性能を評定できます。

実例1 酒田東高校同窓会館(亀城会館)

 山形県、庄内地方にある県立酒田東高校の同窓会館であり、学生の宿泊研修センターです。1987年に建設。
 1年を通じて日本海から吹きつける強風は、建物から熱を奪ってゆくと同時に、建物を潮風にさらして塩害をもたらし、地吹雪を起こして建物を雪に埋めます。また時には,昭和51年の酒田大火のような大災害を引き起こします。このために,建築物の充分な断熱、塩害に強い建築材料の選択,風と吹雪を避ける建築形態の選択、樹木、土手、厚い壁、丈夫な窓などの二重三重の防火対策、等が必要です。太陽も,この地方では冬期間あまり恵みを与えてくれません。庄内地方の1月の日照時間は過去10年間の統計では53時間であり、表日本の関東地方の170時間に比ぺ三分の一にすぎません。
 しかし太陽光のみが再利用可能なエネルギーであり、少ないといえども北国の建築にとって必要です。積雪面での反射光をも利用して建築を明るく快適に保つことができます。会館は、かね折の土手を背負って、真南に向かって扇を開いたような末広がりの配置とし、会館の各室が可能な限り南に面するようにします。そして風を避け、地吹雪を避けるくさぴ形の建築形態をとります。
 冬期間の南側採光窓より入る光を直接構造体にあてて熱を蓄える直接熱取得暖房、海風を利用した通風による夏期の蓄冷、太陽光による自然採光、ソーラーパネルによる給湯、等を行います。1月の気象データに基づくシミュレーションによれば、室内平均気温は16℃最高17.2℃最低15.3℃であり、さらに僅かな加温をすると、室内平均気温は20℃となります。このように厳しい自然の力を巧みに利用して快適な環境を創り得る事を、学生たちが体験し、気象・環境・消費エネルギー量などのデータは、コンピュータにより記録され整理されて、地域の活性化に役立ちます。

実例2 太陽の家

 酒田市の太陽の家は市の生涯学習施設であり、酒田市の環境モデル建築として計画され、酒田市の光が丘公園内に、市民が実際に自然エネルギーの利用とゼロ廃棄を体験してもらうことを目的にした、多目的な集会施設として1996年に建築されました。新エネルギー・
産業技術総合開発機構(NED0)との共同研究事業でもあります。
 建築の構成は、1階プレキャストコンクリートと2階木造の混構造。延床面積は313.5㎡です。南面に3重ガラスの大きな窓と吹抜けが設けられています。高気密、高断熱に加えて、コンクリートの構造体を建物の中に露出させています。これを大容量の蓄熱体として使い、蓄熱蓄冷をしています。
 1OkWのPV発電システムと、貯湯量320リットルの真空式ソーラー温水器を有しています。調理にはソーラー温水器からの給湯を用い、太陽光発電による電磁ヒーターで加熱して調理をすることもできます。また、太陽エネルギーの有効利用だけでなく、雨水貯水タンク、高度処理浄化槽による水の浄化と有効利用、生ゴミのたい肥化などを同時に行い、あらゆる面で地球環境への影響を最小限に抑えた環境保全型の施設といえます。
 日本の業務用建築物のエネルギー消費量は、平均で床面積1平方メートル当たり年間330kWhという結果が出ています。酒田市の「太陽の家」では、年間80kWh、実に平均の25%以下の消費量です。この非常に悪い日照条件の地域でです。冬期の日照が豊富な太平洋側ならば、エネルギー消費量は限り無くゼロに近付けることができます。太陽の家で実証された技術は普遍的なものであり、日本全国・全世界で活用されるべきであると信じています。住居・学校・病院・コミュニティセンター防災センター・役所をはじめあらゆる建築の新築・改築に利用でき、エネルギー使用量・地球温暖化ガス排出量を劇的に削減します。

「太陽学校建築」を考える

 既存エネルギーとの代替性は非常によく、高い省エネルギーを達成した上で、既存エネルギーを新エネルギーが代替しています。

建築そのものが装置であり太陽光に直接仕事をしてもらうことで機械装置は不要になります。照明、暖房、冷房設備を建築工事を単純にすることにより削減し、従って建築工事費を大幅に削減します。太陽の家は、太陽光発電システムを除き、通常の平均的な公共施設の建設費で建てられました。
 また、アメリカ パッシブソーラー会議のでの1983年の報告によれば、太陽エネルギーを利用した公共建築のイニシアルコストは利用しない施設のそれを大きく下回りました。また最近アメリカの3州から日当たりのよい教室で勉学した生徒の成績が大幅に向上したとレポートされていて、世界各地で教室の自然環境整備が検討され始めています。
 この太陽の家の技術的成果に基づき、東北地方の日本海側においても暖房を必要としない建築が可能になりつつあります。これは日本の進んだコンピュータ シミュレーションの技術に基づき、建築部材の開発、特に断熱材・ガラスの進歩を背景にしています。これによってゼロ化石原子力エネルギー建築の可能性は非常に高くなりました。これは学校を運営する自治体や企業の経費を大幅に軽減します。この技術は、燃料電池との相性もよく、現在想定されている燃料電池の需要規模を大幅に縮小できると考えられます。

 また太陽学校建築は緊急時にその能力を発揮します。四季によらず校内は快適であり、太陽光発電を従来型の蓄電装置あるいは新しいキャパシター・燃料電池等の装置により蓄えて電力を供給し、雨水の利用と浄水装置によって生活用水は確保され、太陽熱により温水が供給され、高度汚水処理装置によって汚水は浄化(太陽の家での実績によれば5PPM以下)されます。
 母なる地球に育まれ、父なる太陽の恵みを受ける太陽学校建築は、シミュレーションによれば宗谷岬から西表島まで、完全なゼロ化石原子力エネルギー・ゼロエミッションがこれからは可能です。